5・理由








夏休みといえば…
色んなことが思いつくだろう。
が、私には毎年どうしても譲れないものがあった。


それは…プールである。


ちなみに私、佐野竜胆は、カナヅチで御座います。
そんな私がどうやってプールを楽しんでいるかというと…
…実は、浮いているだけである。
が、侮ることなかれ。
浮くのは大変気持ちいい。他人から見ればただの水死体といったところなのだろうが、
私はあの感覚が堪らなく気に入っていた。
ので、毎年必ずプールで「浮く」。
…色んな意味で、「浮く」。
そんなわけで、今年の夏休みも必ずプールに行こうともくろんでいた。
丁度良く私の通う学校にプールらしきものは見たことがあった。
多分夏休み中に開放されているのだろうと思い、例の萌えキャラ、泉君に連絡してみた所…
やはり私の読みは正しかったようだ。
彼のメールの返信画面を見て、私は密かにガッツポーズを決めた。
彼曰く

「うん、勿論開放されてるよ★
俺も今年は泳ぎに行こうと思ってるよ。でも日焼けしたらイヤだよねぇっ(><)」

だそうである。
日焼けを気にして日焼け止めを塗ってくれとせがまれ、彼の滑らかな背中にクリームを…
あの白い(強調)クリームを…!!

此処まで想像して、私は一人、ベッドでのた打ち回る。
ああいけない。彼を汚してはいけない。
なんたって彼は清純派だから。
…清純派とは言っても、決してアレではない。はみだしてる刑事さんではない。
清純派アイドルということだ。
…ああ、刑事さんは純情派だったっけ…。
まぁどっちでもいい。


ベッドの上でごろりと寝返りをうった私は、ふと開け放してある窓に目が行く。
…待って、いるのに。
誰をって、勿論…あの神様を。

あの少し気まずくなった夜。何事もなかったように帰って行った百を見送って。
私は何だか、少しだけ寂しかった。
彼が名前で呼んでくれなかったことが?
彼との距離を感じてしまったことが?

…違う。

百の気持ちを理解したくても、理解できなかったこと。
百があんな風になってしまう、その原因を作ってしまったのに、
その原因すら理解出来ない私。
…百の態度が変わったのは、私がどのくらい生きているのかと尋ねたときだ。
どんな理由かは解らないが、聞いて欲しくなかったんだろう。
解るのは、それだけだ。
そしてあの夜以来…百は以前のように唐突に窓から侵入してくることがなかった。
でも何だか、尋ねてしまった瞬間の、あの百は…何だか…

本当に、神様に見えた。

実際にそうなのだから、そう見えても何も問題は無いのだ。
けれど…あまりに、遠すぎる。何も解らないけどひしひしと、それだけを感じた。


百は、私のこと…嫌いになったのかな。
現にこうして毎日彼のことばかり考えているのに、ちっとも現れてはくれない。
此処数日は積極的に外に出るようにもしているが、出てきてくれない。
一度会いに行こうと庭から続く森の中へと入ってはみたものの…
やはりあの入り口は人間の私が通ると、何の反応も示さなかった。
まるで百から会いたくないと言われたような気分だ。
寧ろ休みが始まってからの、あの日々は、全てが幻だったのかと、思えてしまう。
けれども、彼と一緒にやった宿題は相変わらず綺麗に片付いているし、
母も時々彼のことを話題にする。
…いなかったわけじゃないのだ、確実に。
そう思って、カーテンの揺れる窓をぼんやりと眺めているだけの日々を過ごしていた。

しかし…今度会えたら、絶対に謝らなければ。
相手は神様なのだ。絶対にまた会える相手ではない。
だから、いつになるかは解らないが…いつかきっと。


そう。それに。
ずっとへこんでいるわけにもいかない。
彼のことはとても気がかりだが、私は私の時間を、大切にしなくちゃね。
そう思って私は、数日振りに外に出てみることにした。
泉君の背中に白いクリームを…
…………いや、泉君とプールに行くために…。





********






待ち合わせ場所は、学校の前。
指定の時間よりも少し早くついてしまった私は、ぎんぎんに照りつける真夏の太陽を、
うんざりしながら見上げた。
帽子被ってくるんだった…。
学校の周辺の、一応舗装されたアスファルトからは、陽炎がゆらゆらと立ち上っている。
プールがあるのは校舎の屋上
校門の近くに立つ私から見えるグラウンドも、今にも干上がって砂漠になってしまうそうだ。

それにしても…と、辺りを見回す。
夏休みといえど、部活にいそしむ生徒なんかが、いてもいいんじゃなかろうか。
見た所、グラウンドにも誰も居ないし、私は来る途中ですら誰にも会っていない。
本当にプール開放されてるのかな…?
まさか光化学スモッグとか…?この地域ならありえる。
一人黙々と考え込んでいると、遠くから可愛い声が聞こえた。

「さのさぁんっ」

泉君だ。相変わらず可愛い。とてとてと駆け寄ってくる彼の姿は、あの日以来だ。
百と浪漫飛行をした(?)、あの日。
だが彼の腰履きしたジーンズに合わせた白いシャツが眩しく見えるのは…
…いや寧ろ輝いて見えるのは、太陽の所為では決して無い。
漸くたどり着いた彼は、ぜいぜいと肩で息をしながら、
膝に手を付いて上目遣いに私を見る。
「ごめんねぇ…待った…?」
ああ…滴る汗…上気した白い肌…真っ赤な唇…さぁ下のお口は(自主規制)
ではなく。
「うん、大丈夫だよ。そんな急がなくても平気だったのに」
くすりと笑えば、彼も少し照れたように首を傾げて微笑む。
「だって…早く会いたくて。佐野さんに会うのって、あの日以来でしょ?」
だからね。と言いながら、彼もグラウンドを見下ろす。
彼も訝しく思ったのだろうか。
「そういえば…誰もいないんだよねぇ。部活の人とか居てもいいのに…
本当に今日プール開放されてるんだよね??」
不安になって尋ねると、一瞬彼が遠くを見ながら…ふっと笑う。
何だか彼らしくない笑顔で、目が点になってしまう。
けれどもそれは極一瞬の出来事で、私の方へと向き直った泉君は、
非常に無垢な笑顔をお見舞いしてくれた。
「誰もいないってことは…佐野さんと二人っきりだね♪嬉しいなぁ」
ああ。そういうこと言う。ふーん…襲ってもいいですか。
「さっ、早く泳ごうよv俺結構泳ぎ得意だから、ばっちり教えてあげるよ」
さぁ早くっvと手を引っ張られて…
私は本当に、どうにかなってしまうのではないかと、少し不安になりました。





*********





女子更衣室に案内されて着替えるうち、私はふと家の鍵を忘れてきたことに気が付いた。
確か…部屋の机の上に置きっぱなしになっているはずだ。
しかも、今日は母親は(相変わらず)出かけるようだし、父も遅くまで帰ってこない。
どうしよう…でも、まぁ…何とかなるだろう。
今から取りに行くのも億劫だし、庭に面しているガラス戸が、空いているかもしれない。
それに、いざというときには携帯で母に連絡すりゃいい話だ。
今日はたっぷり浮かなくちゃvと、私はいそいそと着替えを済ませて、更衣室を出た。




プールに出ると、既に泉君が待っていた。
本当に開放されていたようだ。水色の水が波紋を落とすこともなく、綺麗に張られている。
「ごめんね。お待たせ」
ぺたぺたと歩いて泉君の元まで行くと、彼は驚いたように目を見開いて、
その元から大きい目を転げ落ちそうな程大きくする。
何にそんな驚くんだ少年、とばかりに彼の視線を辿り…。
「ん? 私? 顔になんか付いてる??」
焦って顔に触れてみても、何も無い。
じゃあなにをそんなに見ているのか、もしや…背後霊?!
そんなに凝視する程変な背後霊なんて、ちょっと嫌かもしれないぞ?!

「佐野さん…いつも髪下ろせばいいのに」

…え?

「もうっ凄く綺麗だよ? そういうの、隠さない方がいいよ?」
ぷりぷりしながらも嬉しそうに首を傾げた…どうやらこれは癖らしい。
実に可愛らしい仕草だ…多分私が真似したらボケた人にしかならんのだろうが。
ではなくて。
確かに、いつもは髪を適当にアップしている。
それに、プールとなれば、普通髪を一つにまとめるものだろう。
…しかし、この佐野竜胆は違う。
髪が水中に広がる、あの感じが無ければ、私の中では良くないのだ。
傍迷惑な趣味だと罵られてもいい。私はアレが好きだ。
あの毛根からの開放感(?)。アレは堪らない。
ので、いつもプールや海に行くときは、逆に髪を下ろしているのだが…
まさかこんな反応が返ってくるとは。
「有難う。けど、私なんかより泉君のがずっと可愛いと思うけどねぇ」
うんうん。本当に。泉君は男にしとくのが勿体無い。
女の子だったらなぁ…ほっぺ触ったり…髪触ったり…胸触ったり…太ももに触ったり…。
あんなことやこんなこと…いっそ問答無用で押し倒(自主規制)
…流石に男の子にやるとセクハラになるけど、女の子同士って結構そういうことするし。
泉君が女の子だったら、絶対やるな。
「そうかなぁ?まぁいいよ。俺は。何か照れちゃうし…ほら、早く泳ごうよv」
本当に照れているのか、焦ってコケそうになっている。
それにしても…
「変だね。どうして皆プール解放されてるのに来ないんだろ??」
そう。更衣室に居たときもそうだったが、人っ子一人いないのだ。
しんと静まり返った夏休みのプールなんてはじめて見た。
この地域の夏は暑いし、皆結構来るのだろうと少し構えていたのに。
これじゃあ本当に二人きりだ。
…特別やましい感情も無いから、どうってことはないけど。
いや、別の意味でのやましい感情は満載…。
「…そうだね。佐野さんは、騒がしい方が好きだった?」
肩越しに振り返った泉君が、少し躊躇いがちに聞いてくる。
「ううん、寧ろ私、人の多い場所ってちょっと苦手だからね…こういうほうが楽かな」
滅多にないだろうけど、と付け足して、少し笑う。
「そうなんだ。良かったv」
一瞬だけ口角をあげた泉君が悪代官みたいに見えた気がしたけど…
多分それは気のせいだろう。





**********






泳ぎを教えてくれると言った泉君の言葉は本当で、私はビート板を持ってだが、
泳げるようになっていた。
…以前までなら、バタ足をしても全く進まず、ビート板を持っても溺れている人。
という感じだった私が、である。
泳げるようになったのはとても嬉しい。そう。嬉しいのだが…

この体勢が問題である。

プールに立った状態の泉君が、ビーチ板を持って浮いた私を、
腰と背中を支えてくれているのだ。
自慢じゃないが…私はそんな素晴らしいスタイルの持ち主というわけでは決してない。
多分、月並みの月並み。中の中。何の変哲も無い、普通の高校生。
寧ろどっちかというと、幼稚体型かなぁ…という。
そんな身体に触っても面白いわけがない。それに問題は其処ではない。
彼にそんな趣味があろうはずがない。
問題なのは…私が非常にくすぐったいということだ。しかも…照れる。
わき腹辺りに偶然手が触れるだけで、奇声を発しそうになる。
しかもその奇声も女の子らしい、可愛いものならいいのだ。
しかし…

「此処をもうちょっと力抜いて…」
途端、びりっと電気が走ったような感覚に、思わず奇声が出る。
「ひゃい!!!」
天井の無いプールのため、見事青空に私の奇声が響く。
ひゃいって何だ。ハイの進化系か。しかも声裏返ってるし。
「じゃ出席取るぞー。佐野竜胆!」「ひゃい!」みたいな。そんな世界ヤだよ。
恥ずかしさに死にそうになりながらもちらりと泉君を見上げると、
彼も驚いたうえに焦っていたようだが、奇声の理由に気付くと、
ぷっとまともに吹き出した。
「あはははっ…びっくりしたぁ。佐野さんて、くすぐったいのダメなの?」
「…ダメなの」
鸚鵡返しのように呟けば、また彼が笑い出す。
ああそんなに可笑しいか。笑えよ。笑えばいいさ。気が済むまで笑いたまへよ。
恥ずかしさも手伝って不貞腐れる私に、笑いすぎて涙まで滲んできた泉君が、
涙をふき取りながらも、まだけらけら笑っている。
「本当に可愛いなぁ佐野さんて…ああ、ごめんね。馬鹿にしてるんじゃないんだよ?
でも本当に可笑しくて…っう、ぷぷ…」
余程ツボだったのか、ずっと笑い転げている。
多分放っておけばずっと笑ってるんじゃなかろうか。
「泉君、笑いすぎだから」
苦笑しながら言えば、泉君がうんうんと頷きながら一応収まる。
「はぁ…可笑しかった。やっぱ俺、佐野さん大好きだよ」
馬鹿にされているのか褒められているのか解らない。
けれども泉君は果てしなく楽しそうに笑っているから、まぁいいや。


その後数時間のうちに、私は飛躍的な進歩を遂げた。
一応泉君の支えなしでも、バタ足で前に進めるようになったのだ!
これは凄い進化である。きっと泉君の教え方が良かったのだろう。
そうして二人で一通り騒いだ後、私たちはプールを後にした。





**********






ぽつんと額に何かが触れたな、と思った次の瞬間には、雨がぱらぱらと降り始めた。
この季節特有の、夕立である。
辺りの空気も、雨の所為か少し冷えてきた気がする。
「やだ…急いで帰らなきゃ」
プールの水で未だ水気が残る身体で雨に当たるとなると、風邪をひいてしまう。
少し急ぎ足になりながら、家路を辿る。
相変わらず蝉の鳴きやまない道を、小走りに抜けてゆく。
幸いなことに、天井を遮る緑のお陰で、そんなに濡れなくても済みそうだ。
そして、ある通りに差し掛かる。
其処は、あの終業式の帰り道にも通った、あのなだれ込みそうな緑が茂る、
百が立っていた、あの場所。
あれから幾度と無く通ったが、いつも期待とは裏腹に誰も立ってはいなかった。
今日に限って居る訳は無いはな…と、半ば諦め半分に俯きながら、通り抜ける。
足元を見ながらも、やっぱり気配を探ってしまうけど…矢張り、誰もいない。
しかし、その通りを抜けきらないうち、背後で誰かの気配がした。
そして、遮られていても尚ぱらぱらと葉を通じて落ちてくる雨粒が、突然無くなる。

驚いて振り向き…まず見えたのは、能面。

あの独特の不気味な面にちょっと驚いて後ずさりした後、はっとする。
そう。こんなお面をつけているのは、彼しかいない。
「百!」
嬉しさと驚きがごちゃごちゃになった声で呼びかければ、彼はすっとお面をずらす。
そして現れたのは…数日前と何ら変わらない、人間離れした美しさの狐顔。
どうやら彼が持っている大きな葉の傘を、背後からさし掛けてくれたようだ。
「どうして此処に?」
ぱくぱくと口は動くものの何も言葉にならず、やっとこれだけ言うと、
彼はあの得意げな笑みを浮かべる。
「いつかの礼だ、今日は俺が送ってやる」
何だか不意に、私は泣きたくなってきた。
だって彼の顔が、全て解っているとでも言っているみたいで。
何か、何があったってわけではないのに。
私は何だか、彼のその寛容さに、泣いてしまいたくなったのだ。
「っあのね…あの、百?」
「何だ」
隣で傘を差しかけながら、百は前を向いたまま返事をする。
「その…前来てくれたとき、あんなこと聞いて、ごめんね…」
どんな理由かは解らないけど、百に悪いことしちゃったみたいで。
とにかく言わずにはいられないのだ。茫洋とだが、確実に。
「私、人間だから…百がどんなこと嫌がるのか、よく解らないんだけど…
それでも、やっぱり百にあんな顔させたのはいけないことだったと、思ってるよ」
百がふと、立ち止まる。
私もそれに合わせて立ち止まり、彼を見上げた。
「…あんな顔?俺はどんな顔をしていた?」
言われて、私もふと考え込む。どんな顔たって…。
「あの時は…何か、そうだなぁ…ええと、傷付いたような…?」
そう。確かに…変な言い方になるけど。神様が傷付くなんてないのかもしれないけど…。
「あと…神様っぽかった」
俯きながら呟いた私に、百は唸りながら
「俺は神だぞ。いつだって『神っぽい』顔はしていると思うが」
ああ。そういう変なとこ自信過剰なのね。まぁ一理あるんだけど…。
「じゃ、じゃあ何であの時、ああ言う風に言ったの?」
「うん?ああ、アレか…俺はな、お前らが思う程には容易い時間を生きては居ない。
 だがな、逆にお前ら程長く生きている奴等も居るまいて。
 だから少し面白くなかっただけだ」
…??? 相変わらず意味が解らない。
「じゃ、じゃあ、何で最近私の前に出て来てくれなかったの?」
「…俺とて暇なわけではないぞ。色々とやることがあるのだ」
「…じゃあ…今はそれが、終わったの?」
「まぁ当面問題はあるまい。
そこで偶々近くにお前の気配を感じたから、送ってやろうと思ったのだ」
完璧に脱力。
あんなに悩んでたのに…勝手にぐるぐるしてたのは私だけなわけか。
もしかして私のこと、ちょっとは気に掛けて出てきてくれたのかなんて、
一瞬期待した私が馬鹿だったのね…。

にしても…何故私はこんなに、百に固執しているんだろう。
何だかんだ言いつつ、最近は百のことばかり考えていたわけで。
そりゃあ一緒に居たら楽しいし、面白いし、此処に来て初めての友達にもなるし…。
でも、それだけ…?本当にそれだけだろうか…?
考え込む私に、

「要するに俺が気分を害したかと心配しているのだろう?その辺は大丈夫だ。
 そのように考え込む必要は無いだろう」

必要の問題じゃないんだけどね…まぁいいや。
でも、一つだけ安心したのは、彼がまだ…私と遊んでくれるかもしれないということ。
「うーん。何か、相変わらずよくわかんないけど、百に嫌われてなくて良かった」
そう。それに尽きる。
一人でにやにやしながら頷いているものだから、
明らかに不審なものを見る目つきで百が見下ろしている。
そして気が付けば、随分と長い間二人で話し込んでいた。
時計は既に泉君と別れてから30分も進んでいた。
雨はもう上がっているのに、百は未だ傘ならぬ葉っぱをさしているし。
「…ふん、お前はやはり面白い人間だな」
そりゃ百から見たら百面相みたいで面白いかもしれないけどね。
私もそんなことを言う百を面白いと思っているのだから、結局おあいこなのかもしれない。
「ふぅ…雨、あがったね。もうこんな時間だし、帰ろうか」
言いながら欠伸している傍ら、百がじっと私のことを見ているのに気付いた。
いつの間にか傘代わりの葉っぱも、持っていない。
「…竜胆、お前は今日泉薫と会ったのか」
イズミカヲル…ああ、泉君のことね。
すっかり忘れていたけど、プールの帰りだったんだっけ。
「そうだよ。学校のプールが解放されててさ、それで泳ぎを教えてもらってて」
泳げなかったのに、教えてもらったら泳げるようになったんだ。
自慢にならない自慢かもしれないが、自慢せずにはいられなかった。
…それほど私にとっては画期的なことなのだ。
方や自慢話には全く興味が無いのか、百はあらぬ方向を見ながら何かを考え込んでいる。
「ちょっと百、聞いてる?私の武勇伝なんだからちゃんと聞いてよ」
武勇伝は流石に言い過ぎかもしれないけどね。
それでも得意げにふんぞり返る私に、ぱっと百が向き直る。
突然何だ。と少し構えた私に…

「うむ…竜胆、俺と共に今夜泳ぎに行くぞ」








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