14.海と娘









閉じられたドアを見やって、真貴は微かに微笑んだ。
「…薫の初恋が、あの娘なんだね…」
まるで人間のようにそんなことを呟いて、真貴はちょっと首を傾げる。
心なしか楽しそうであることも気になるが…。
「初恋、だと?」
「…そうだよ。薫はずっと、人間界で暮らしていたけど、あんな風になるのは初めて」
だから、初恋でしょ?
秘密でも囁くように楽しげに言いながら、奴は暢気に出された茶を啜る。
「…ふん、あの竜胆をどうするつもりなのだか…取殺して、永久に愛玩するか?」
ふと、真貴の柔和だった表情が僅かに曇る。
けれども未だに僅かに微笑をたたえながら、床を見つめた。
「…そうだとするなら、許さないけど…でも、薫はそんなことしないだろうさ」
窓の外、2人の気配を探りながら、真貴がぼんやり呟く。
こいつと泉の関係については深く知らないが…確か、泉が以前居た場所を治めていたのが、
真貴だったはずだ。
時々こうして真貴と会う時に、話を聞いたような気もする。
500年生きた狼。生き過ぎて神と呼ばれた物の怪。
「…さて。どうだろうな。友を殺す覚悟も必要かもしれぬぞ」
俺にとっては、他愛ない問題だがな。
吐き捨てれば、真貴が緩慢に被りを降る。
「薫は…ただ人間のように、恋をして、一緒に居たいだけなんだと思うんだけどね」
窓の枠に手を掛けて、真貴が下を覗き込む。
「そうか?奴は相当本気だと思うがな…俺に楯突く程だしな」
「…え、それ本当?」
驚きと好奇心が混じった声が直ぐに返ってくる。
「ああ」
「ふぅん…薫がねぇ…」
何を思ったのか、にやにやしながら真貴が俺を振り返る。
「…もしかしてさぁ…」
その表情に気に食わないものを感じながら、見返す。
…奴がこういう表情をするときは、大抵ロクなことがない。

「…あんたも、竜胆ちゃんが好き?」

…何を言い出すのかと思えば。
思わず溜息を吐きながら、俺も窓の外を覗き込む。
その様子を真貴がじっと観察しているのを、横目で見ながら。
「…俺は竜胆を殺したくはない」
それだけ呟いて、立ち上がる。
僅かに感じ取れる竜胆の心の変化が、激しさを帯びている。
何かに…振り回されているのだろうか。

二階の窓からは、眼下に2人の様子が実によく見て取れた。
俺が見た時、竜胆は強引に腕を掴まれ、泉と至近距離で何か話していた。
神に聴力を持ってすれば、如何なる場所の如何なる音の如何なる言葉でも
聞き取ることが出来る。
勿論、意識を集中させることくらいは必要だが。
つまり、この場からでも2人の会話は鮮明に聴くことが出来るわけで。
こんなことを言っては、また竜胆が「人権侵害」だの何だのと騒ぎ立てるだろうが…。

そうしてまず聞こえた泉の声音は、抑えられないものを抑えようとした、
酷く無様な響きだった。
「ねぇ佐野さん、君が欲しいよ…」
呆然としている竜胆にその声は聞こえていないのか、
何処か遠くを見つめたまま、微動だにしない。
…まるで生気を抜かれた人形のようだ。
それに焦れたように、泉が竜胆の肩口に顔を埋めた。
いつもとは別人のように戸惑い、恐れる竜胆。
僅かに感じ取れる感情の放流は、彼女らしくないものばかりだった。
いっそこの場で泉を血祭りにあげてみようか…などと俺が思った矢先、
泉が顔を上げて、竜胆を覗き込む。
「ねぇ、何か言ってよ、佐野さん。そうじゃないと、ダメになっちゃうよ…」
やっと竜胆が泉を見上げるが、矢張りその瞳には生気がない。
潤み始めた瞳は、何も言わず、ただ静かに泉を映している。鏡のようだ。

そして2人の距離が急激に近づき、一瞬竜胆の動きが止まり…
彼女に瞳が驚きで大きく見開かれると同時に、涙の雫が彼女の頬を伝った。

暫しの沈黙の後、うつむいた泉が溜息を吐く。
竜胆の瞳から溢れる雫を指で掬いながら、泉が呻くように苦しげに呟いた。
「佐野さん…どうして泣くの?俺じゃダメなの?そんなに…」
竜胆の微かな嗚咽に混じりながら、泉の針のような声音がやけに大きく聞こえる。

「…百がいいの?」

悔しそうに吐き出す泉の言葉に、竜胆は深く俯いた。
そうして漸く、小さく被りを振る。
「…解らないよ…」
やっとそれだけ言って、竜胆がまた重い沈黙を落とした。
ノイズのように錯乱する竜胆の心が、俺の心までもを重くしたかのように、
俺は僅かに魂が痛んだ気がした。
…これ以上先を、竜胆に言わせてはならぬと、何処かで思った。
が、意に反して、俺はただ竜胆の様子を伺うことに集中しているだけで、
この身が動こうとしない。
…まるで期待しているのかのように。

対して、泉はすっと目を細める。
そして纏わせる冷酷で無邪気な空気は…物の怪の、本性が漏れ出した証だ。
いよいよ俺が出て行こうかと一歩踏み出しかけた時、泉が口を開いた。

「佐野さん…百は、君のことなんて、どうとも思ってない」

奴は恐らく、昼間の俺とのやりとりのことを指しているのだろう。
どうするつもりもないと、言ったのは確かに俺だ。
竜胆が大きく瞳を見開き、泉を凝視している。
彼女の悲痛な色がじわじわとあふれ出し、とめどない涙の粒になって落ちた。
何処か冷静にそれを眺めながらも、俺は確かにその時、泉を消してやろうと思った。
竜胆を泣かせる愚かな狼。
…所詮神は神でも、獣たる狼の末路か。

「百は、誰かを想うことはないよ…絶対にね。だってあいつ、神様だもんね?」

瞬間、竜胆の呼吸も心も、止まったのが分った。
…それならば未熟ながら神であるお前が竜胆を想うのは、どういう了見だ。
懐かしい感情であるが…苛立ちにも似たものが、俺を支配する。
そして同時に、焦りを感じた。

竜胆は暫く呆然と泉を見ていたが、突然踵を返す。
そして今まさに暮れ行く森の中へと、駆けていった。
呆然と立ち尽くしている泉を置き去りに、竜胆は恐れもせず森の中へ駆けて行く。

「…今の時間の森は、危険だねぇ…」
いつの間にか隣に居た真貴が暢気に呟いて窓を開ける。
その気配に気付いた泉が二階の俺たちを見上げ、顔を背けた。
「…薫も不器用な奴さ…」
哀れみなのか慈しみなのか、それとも諦めなのか…。真貴が小さく呟いた。
しかし。今は真貴や泉に構っている暇などない。
泉の処置も後回しだ。元から消すことなど、他愛ないことである。
竜胆の中の泉の記憶も、消し去ればいいだけのこと。
しかし、窓枠を飛び越えようと身を乗り出した俺を、横から出てきた真貴の腕が遮った。
何だ、と視線だけを横目に送れば、真貴がじっと森の奥を見つめていた。
「…きっと今、竜胆ちゃんはあんたに会いたくないよ」
何か探っているのだろうか。しきりに辺りに視線をやりながら、真貴は静かに告げる。
…勿論、そんなことは分っている。それが分らぬ俺ではない。ではないが。
「だからどうした?俺の邪魔をするつもりなら、お前とて容赦しないぜ」
言った俺の腕を、突然真貴が掴む。
阻止するというよりも、牽制のように。
そしてこいつにしては珍しく、淀みない言葉ではっきりと言い放つ。


「彼女は人間なんだよ、百」






****************





暗い森の中の。奥。
人間にしてみれば随分奥深く。
そこに居ることは知っていた。
けれども俺は、ぼんやりとその気配を辿ることしか出来ずに居た。
いや。実際その場所まで行くことなど容易いが…。

今この、竜胆の家を出たとするなら…。
竜胆に会ったとするなら…。

ふと、探っていた気配が交わる。
恐らく真貴が今頃見つけたのだろう、真貴と竜胆の気配が重なって見えた。


『彼女は人間なんだよ、百。
神様のあんたが、守るべき人間を傷つけて、それでいいと言うの?
竜胆ちゃんは怯えてるんだよ。
あんたが好きで、そのうえ神だから。
竜胆ちゃんは、今あんたが怖いんだよ』


…どういう意味だ。竜胆。
俺にもわからぬことが、あったようだ。
お前は一瞬でも俺を怖いと思っていたのか。
俺が神であるから。
神が怖いのか、竜胆。


「…分らぬ」

呟き、立ち上がる。
俺が行ったとして、竜胆が怯えるのだとしたら。
そのときは…そのときは、もう。

考えながら階段を下り、居間でテレビを見ていた竜胆の母と視線が交わる。
「あらぁ、もう帰っちゃの?」
にこやかに笑う彼女は、何処か竜胆に似ている。
実に慈悲深い人間だ。竜胆を育てるのに相応しい。
「ああ。世話になった」
挨拶程度に軽く手をあげて、ふと思う。
このまま迎えに行って、そのまま少し竜胆と話がしたい。
つまり。
「それと…すまぬが、今日竜胆の帰りはちと遅くなるやもしれぬ」
人間の娘を心配させるのも悪いのだろうと思う。
一応告げると、竜胆の母は少し首を傾げる。
…その癖も、竜胆に似ている。
「え?ああ、そうだったの?じゃあ、あの子に伝えといてくれるかしら。
今日ママお友達のお家にお泊りさせて頂くの。
それとお父さんも今日は会社に泊まるって言うから、お夕飯だけちゃんと食べてって」
「承知した」
言い残して、玄関から暇を告げる。
また来てね〜。という母の声に、軽く返事をする。
しかし彼女には見えないところで、俺は密かにほくそ笑んでいた。
ならば、丁度いいではないか。其の方が好都合である。


家を出た所で、気配を探る。
未だ遠くへは行っていないようだ。
しかし…竜胆の心が徐々に落ち着きを取り戻し、
いつもの見慣れた気配へと、変化していっているのが分った。

「…どういうことだ」

僅かに乱れが生じた所為で竜胆と真貴の気配を見失うが、
…また直ぐに見つけることが出来た。
何せ此処は俺の庭である。
それに、真貴も特別気配を消している風でもない。
…つまり、それはどういうことなのだろう。
俺に近づくなと言いながら、俺が2人を見つけても構わないと言うのか。
…ならば、近づくまでよ。
俺は意識を集中させ、大気の中にもぐりこむ。

真貴の気配は遠くからでもよく解る。
あれほどの気配を読めない俺ではない。
そして奴もそれは十分心得ているはずだ。
だが何故だ。
と、俺の問いかける呼びかけに答えるかのように、真貴が振り返る。
…まるで全てを見通していたように。
竜胆を抱きかかえた真貴の表情は、僅かに愛を滲ませていた。
「…よく、眠ってるよ」
静かに呟いた真貴が、腕の中の竜胆をのぞきこんで笑みを浮かべる。
俄かに満足げで、いくらか疲弊している、華奢な竜胆。
「…何処に連れてゆく」
「そうだね…とりあえず、今日はお家に帰してあげなきゃ」
少しおどけたようにヤツは言って、そのまま踵を返そうとする。
けれど、俺はその肩を掴んだ。
「…竜胆は俺が怖いと思っているのか?それに、何故その大げさな気配を消さなんだ」
俺では何も出来ないと。そう言い残し奴が自ら竜胆を拾った。
しかし、見つけてくれと言わんばかりに気配は消さぬ。
これでは筋が通らぬ。まるで罠だ。
いぶかしむ俺に対し、真貴はいつものふやけた表情で、ぼんやり木々を見上げる。
「んー…そうだねぇ……百、あんたはさ、竜胆ちゃんの気持ちを、分ってる?」
竜胆の気持ち。
一瞬だけ真貴の瞳に宿った、牽制の光を見逃さなかった。
そんなものに、俺が怯むとでも思ったのだろうか。
「…俺が好き、なんだろう?」
すると、真貴が眉をあげて、少し呆れたように溜息を吐く。
そして、よいしょ、と竜胆を抱えなおす。

「…それ以上に分らないなら、これ以上竜胆ちゃんに関わっちゃいけないよ。
神様として、ね」

呟いて、真貴が暗い森の奥を見据えるように、遠くを見つめた。
「俺は、俺の好きなようにやるだけだ。お前にとやかく言われる筋はないな」
俺の言葉に、真貴は微かに笑んだ。
「…竜胆ちゃんの気持ちくらい、人間でさえ察することが出来ると言うのにね…」
途端、ざわざわと辺りを揺らす風に気付いて、真貴が笑みを深めた。
…嫌な奴だ。折角、この場から消してやろうと思ったのに。
ふと、密かに通じさせていた力を止めた。
すると風はまた穏やかに吹き抜け、夏の緩い呼吸を繰り返す。
それを認めた後、未だ僅かに警戒する真貴を退屈げに見やる。
「…俺が竜胆を、『連れて』行くとでも言いたいのか」
真貴の顔から笑みが消えて、一瞬だけ沈黙が落とされる。
こいつにしては、珍しい反応だ。
そして暫し考えた後、
「…そうだねぇ…あんたなら、やりかねないだろうね…」
それに、仮にそうなったとしても誰にも止められないだろうね。
付け加えながら、真貴は竜胆を抱く腕に力をこめた。
…まるで何かから守るように。

此処までくれば、呆れてしまう。
「…全く。お前も泉も、同じことを言う。俺はどうするつもりもないと言うのに」
溜息と共に吐き出せば、真貴が僅かに微笑んだ。
「本当に?」
直ぐに還ってきた返答に、言葉は使わずとも、視線で伝わったようだ。
何故そう思う、と。
「…彼女は…」
真貴が言いよどんで、竜胆に視線を落とす。
「彼女は、あんたが好きだと言うのもそうだけど。
あんたに色んなものを望んでる。
そしてあんたは、それに応えられないし、応えちゃいけない。
…この先にあるものは、何にせよ竜胆を、酷く傷つける結果になるんだよ」
真貴の瞳が悲しげに歪むのを、退屈な気持ちで見返す。
「…だから、何だというのだ」
俺には真貴の言うことが、よく理解出来ない。
何故このまま竜胆に構っていてはいけないのか。
確かに俺は彼女に危害を加える者から守りたいと思っている。
けれど。そういった姿勢が俺の存在にとって、
あってはならないことだということも分っている。
だが、それがどうした。
竜胆を守るためならば、そんなものはどうだっていい。
「竜胆ちゃんが傷付いてもいいの…?」
まるで正義の遂行者のような顔つきで、目を伏せる。
慈しみと哀れみが混ざったその表情は、酷く不愉快だ。
「…俺は竜胆を傷つけることなどしない。それだけは約束しよう」
俺の存在に賭けて誓うさ。
おどけて呟けば、真貴がふっと肩の力を抜いて、そしてじっと俺を見つめる。
「…百、この娘を大事にしたいんだったら…」
言いかけた真貴の腕の中、竜胆が軽く身じろぎした。
「…ん…ぅ…」
それに気付いた真貴が、はっとして言葉を飲み込み、また竜胆を抱えなおす。
竜胆は夢でも見ているのか、暢気に寝息を立てている。
…その様を見ていると、俺は何かが沸きあがってくるのを感じる。
「…そろそろ、返してくれぬか。それは俺のものだ」
躊躇した真貴が、腕の中の竜胆を覗き込み…そして大きく息を吐いた。
そうして渋々、俺の方へと眠る竜胆を差し出す。
「…いいかい百。
これ以上竜胆ちゃんに深く関わるようなことをするんだったら、私にも考えがあるよ…」
さっと竜胆を奪い取り、俺は軽く鼻で笑う。
「ほう。お前に何が出来る?今となっては、しがない無名の神のお前に」
けれど真貴はふと気がそれたように微笑んで、俺の腕の中で眠る竜胆の髪を優しくなでた。
そしてゆっくりと視線を合わせて、奴は表情を変えないままに瞬きする。
其の瞳の中、僅かに除く奴の本性が、ぎらりと獰猛な水色を映し出す。

「…百、いい加減にしておけ。人間の心を踏み躙ることは、私が神として許さん」

軽く肩を竦めて、踵を返す。
威嚇せずとも、奴の実力を舐めているわけではない。
「分っているさ、海神(わだつみ)よ」
それだけ言うと、背後の真貴が静かに空気に溶けるのを感じた。





白いワンピースの裾が、水に濡れていた。
それをどうすることもせずに、竜胆はぼんやりと地平線を見つめている。
海の青に侵食される竜胆は、美しく見えた。
ヒトとはとても脆い生き物だ。
肉体も精神も脆弱で、しかし酷く懸命な、生まれながら手負いの獣のよう。
今こうして眺めている竜胆も、いつかはこの海と言う根源へと、還るだろう。
ふと、泉薫の言葉が蘇る。
俺は、竜胆をどうしたいのか。

あの時は確かに、このままでいいと思っていた。
竜胆が俺を好きで、俺は竜胆が好きであるという、
その人間ごっこの結果に満足もしていた。(勿論、竜胆の想うような形ではないだろうが)
しかし。




忙しない感情の変化を反映するように、よく変わる表情。落ち着きの無い仕草。
終わり無き終わりへと全力で崩落する、その生命の美しい、うてな。

…『連れて』行こうか。

なぁ竜胆。
神とは、何だと思う?
お前はどう思う?

いよいよ俺の出番が来るのやもしれない。


と、剣呑な俺に対し、竜胆はのほほんと呟く。


「海ってさー…浪漫だよねぇ」

…浪漫?

視線だけで疑問を投げかければ、竜胆が興奮を抑えきれないように、
腕をばたつかせながら熱弁をふるう。



「なんてーかさ、こう、マグロの一本釣りとか、妄想しちゃうよね!
『男一匹人生で、海で死して何の悔いがあるってんでェ!!』みたいなさ…!!」



前から思うのだが、こいつはテレビの見すぎだと思う。





********





帰りの電車の中で、小さく溜息をつく。
だって…私が想像してたのは

『あはは〜v私を捕まえてご覧よ百〜vついてこいや〜v』

『ハハハ。おい、こら待て竜胆。今度は溺れても助けぬぞ』

みたいなイメージだったんだけどなぁ。
実際は嫉妬なんかしたくらいにして、可愛くないとこも見せちゃうし…。
それに、あの百の台詞も気になる。

行きと変わらず、人気の無い車両の中は閑散としていて。
まるで博物館みたい。
其の中で、静かに電車に揺られてる私と百。
ちょっと裾が生乾きなのが気になるけど、
百と恋人みたいに隣に座って、時々綺麗な横顔を見上げたり。
…やっぱり嬉しい。

隣で相変わらず窓の外を眺めてる百は、いつもどおり。
ちらりと盗み見たつもりが、目が合ってしまって咄嗟に目を逸らす。
「…?何だ」
腕を組んで私を見下ろす百を、またちらりと見上げる。
言ってしまっても…大丈夫なんだろうか。
私だけの気持ちが解らないってのは、単純に読心術使わないからじゃない?なんて。
私がそうして視線を彷徨わせる間、百がじっと私を見下ろしているのが解る。
「だから…えーと…んー…」
しどろもどろになる私に、徐に百が口を開く。

「…竜胆、お前は俺が怖いのか」

何を突然。と思って見上げてみれば、アラ不思議。
結構真剣な顔をした百さま。
「は…?突然何言い出すの」
…ちょっとドキっとしたなんてことは、あったりするけどね。
いつこうやって遊ぶのに飽きて私の前からいなくなっちゃうんだろう。とか。
百のことが好きなことも、それが間違って伝わってたら、とか。
そういう色んな恐怖は抱えてる。
でもそれは、私が百を友達として大事だから、恋をしてるから、
だからついて廻るツケなんだと思っているけど。
本当に怖いよ。嫌われたら、消えてしまったらどうしようって。

そんな私の内心を知ってか知らずか、百は考え込む。
そして

「お前は神が怖いか?」

またまた突然である。
しかし、私が想像していたのとは、ちょっと意味が違っていたようだ。
神が怖いかってことだったわけね…。

「…神様は別に怖くないかな。
だって今まで、そんな意識したことなかったし」

うんうん。これが正直なところである。
…飛べたりすんのは、確かにちょっと怖いけどさ。
だがそんな答えにも満足したのか、百はいつもよりちょっと嬉しそうにはにかむ。

「そうか。ならば、良いのだ。また何処か行こう」

……自然に微笑む百様に、ちょっとドキっとしたなんて、そんなことはないけど。

また行こうっていう言葉が喉に詰まって出てこなかった私は、やっぱりちょっと嬉しい。
百に気付かれないようにこっそりと、
周りには私達以外の人なんて殆ど座ってないのに、
ちょっとだけ座る位置を近くに移動する。







つづく



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